*場所は居酒屋! 幼馴染二人!*
- 女
- 「男女の友情ってさ、やっぱあると思わない!? てか私達絶対それでしょ!」
- 男
- 「わかる、マジ同感~。あるに決まってっし! ありえないとか言ってる奴らとか、ただのスケベだよなw」
- 女
- 「てか私、アンタのこと意識したこととかないしw」
- 男
- 「言ったなこの!w オレもそうだし! お前のこと絶対女って思えないわ~!w」
- 女
- 「でも恋人って別れたら終わりだけど、親友はずっと親友だもんね~w」
- 男
- 「そうそう! オレ達、きっとずっと親友だよな!」
*彼らは子供の頃から幼馴染……正真正銘無二の親友である!*
- 一彌
- 「(隣の卓でそれを聞きながら)……」
- 一彌
- 「*すくっ*」
- 一埜
- 「お、お兄ちゃん……なんでツブ貝串を右手の指の間に4本挟んだ状態で立ち上がるの? 埋葬機関なの?」
- 一彌
- 「(うっそりと二人のそばに立つ……)*……ムシャムシャ……*(ツブ串を食べる)」
- 男
- 「うわっ、なんだこいつ!💦」
- 一彌
- 「自慢じゃないがぼくは、同性の親友のことを『ちょっといいな』と思ったことがある。ふっ……『同性愛者がもしも同性の親友を好きになったら、それは邪なのか?
友情は終わりなのか?』」
- 男
- 「!?」
- 一彌
- 「異性でも同じだ。別れたあと友達になる二人は? 逆に絶交する親友は?
お前たちの話は『恋人』と『友人』を排他的に扱っているが、それは自明なことなのか……!?」
- 男・女
- 「…………」
- 一彌
- 「(急に大声)煮ツブ食えやァァ!(串を振り下ろす!)」
- 煮ツブ
- 「🦪*串から離れて、シュポァァ、という効果音と共に男女の口に放り込まれる!*」
- 男
- 「甘辛い!✨」
- 女
- 「ムチっとしてる!✨」
*その時、快音が響く!*
- 一埜
- 「(立ち上がってスリッパで兄を叩く)」
- スリッパ
- 「*スパァン!!*」
- 一彌
- 「一埜さん!?💕(←シスコン)」
- 一埜
- 「(二人のそばに行く)も、もう本当にすみません……そもそもお酒なんか普段飲まないのに、『居酒屋メニューが食べてみたい!』とか言って私を連れて来て……!
あげくにこれ!?💢 どうしてすぐに人に迷惑を掛けずにいられないの!?💢」
- 一埜
- 「ほら、謝って! ホラ!」
- 一彌
- 「フッ……このツブは、ムチっとしたツブらしい食感を保ちながらも、甘辛いタレにつけられた履歴をも保存している。つまり……そういうことだ」
- 一埜
- 「何がそういうことなの!? ちゃんと謝る!💢」
- 一彌
- 「すいません……💦」
- 男・女
- 「ま、まあいいんだけど……」
*一彌、一埜、着席す!*
- 男
- 「(もぐもぐ)ふむ、煮ツブ……友情が次の形へと変わったとしても、その時あった友情は消えない……アイツはそう言いたかったのだろうか……?」
- 女
- 「…… *もやもや*」
- 男
- 「どうしたの?」
- 女
- 「……いやさぁ、言ってることは分かるよ。でもさ、こういう時にセクシャルマイノリティの話題が私達の議論を乗っ取るのって、なんだか少しややこしくない?」
- 男
- 「む?」
- 女
- 「今、私達は同性愛の話はしてないんだが!?
ある程度『典型的な大学生』らしい男女観で生きていて、その侘しさまで理解した上で、それでも友情を信じたいな……って話をしてたんだが!?💦」
- 女
- 「アンタ立ちなさいよ! 議論しなさい!💢(一彌に食って掛かる!)」
- 男
- 「おおお、言いにくいことを言った! それでこそ我が親友!」
- 一彌
- 「何をぉ!?(喜々としてプンスカ!) そうやってマイノリティを議論フレームの外に置くから良くないのだ!」
- 一彌
- 「我々みんな、何かしらのマイノリティ!
なのに、『普通こういう時は……』みたいに雑な一般化を日々使いこなして見ないふり、普通のふり……それによって君たちは常に自己疎外し続けているのだ!
そのことにまだ気づかんのか!」
- 一彌
- 「救えぬ愚か者め、道徳的残余を味わうがいい!(いわし明太を射出!)」
- 男・女
- 「モグー!💦✨」
- 一埜
- 「いわし明太が道徳的残余なの!?💦」
*アイキャッチ*
- セミ
- 「ミーンミンミン!」
- カラス
- 「カァー!」
*アイキャッチ終了*
- 女
- 「*むしゃむしゃ……ゴクン!*」
- 女
- 「いや、だから!💦 『排除したい』んじゃなくて、今ここで私達がしていたさっきの話題の、射程を限定したいの!」
- 一彌
- 「射程だと!? ならばこちらにも射程がある!(いわし明太を更に構える)」
- 一埜
- 「食べ物を構えないで!!💢」
- いわし明太
- 「異なる種同士で組み合わされた上に飛び道具にされるのか……」
- 男
- 「いやでも、彼女の言いたいこともわかるぞ。『男女の友情は論理的に可能か』を証明したいんじゃなくて、俺たち自身の……なんというか」
- 女
- 「そう。異性愛者として生きてると、男女の親友ってどうしても周囲から『いつ付き合うの?』とか『どっちか絶対好きでしょ』って読まれるじゃん」
- 男
- 「それでも俺たちは『いや、これは友情なんだ』って信じたい。その、ちょっと侘しい感じの話なのよ」
- 一彌
- 「ぬっ……」
- 女
- 「そう。一般論としてはあんたが正しくても、個別の経験としては私たちの話も残るのよ。これだってある種のマイノリティだとも言えない?」
- 一埜
- 「確かにさぁ……お兄ちゃんの話は、いつも射程が無駄に長いよ」
- 一彌
- 「一埜まで!?💦」
- 一埜
- 「飛躍してるっていうか、一人で勝手に納得して、いつのまにかすごい遠いところまで飛んでることがあるし!」
- 一彌
- 「ええい、よくあるクリシェ的話題を、なんとなく独断で合意して、いい感じに丸く収める議論……そんなものをぼくは許さない! 時間の無駄だ!」
- 一埜
- 「人間関係なんてそんなものだよ! それなりにいい感じの落としどころを探って、それで何となく仲良くなった感じになるの!💦」
- 一彌
- 「そんなことで何の真実が明らかになる!?💢」
- 一埜
- 「真実は明らかにならなくても、その言葉がお兄ちゃんに友達が少ないことの理由にはなってると思う」
- 男・女
- 「「うんうん」」
- 一彌
- 「ぐわああああ!💦」
- 女
- 「……でもさ、本当に、そういう雑な言葉でしか言えないものもあるんだよ」
- 女
- 「『ずっと友達でいようね』って、未来永劫友情が継続することを論理的に主張してるわけじゃないでしょ」
- 男
- 「未来の不確実性を知ったうえで、それでも今そう願ってるってことだよな」
- 一彌
- 「…………むむ、なるほど」
- 一埜
- 「ほら。人間関係なんてそんなものなの」
*一彌はしばし沈黙する。居酒屋の喧騒……一埜が静かにメロンソーダを飲む。*
- 一彌
- 「……つまりこれは命題ではなく、遂行的発話に近いのか!?
『男女の友情は存在可能である』という発話それ自体の意味が、『ずっと友達でいようね!』という、関係を定義するためのものなのか!?」
- 男・女
- 「「あ、改めて言われると……」」
- 女
- 「そこまでのことでもないんだけど……💦(なんか赤面)」
- 男
- 「……でもそういうことなのか?💦(頬を掻く)」
- 一彌
- 「……ッかァァァアー、難しいな! 初めからそう言えばよいではないか!💦」
- 一彌
- 「字面だけ読めば、『異なる性別の二者間に非恋愛的な親密関係は存在可能か』という存在命題に見える!」
- 一埜
- 「お兄ちゃんが読むとそうなる」
- 一彌
- 「ところが実際の会話では、しばしば関係についてのメタコミュニケーションなんだな!?」
- 女
- 「たとえば私がこいつに『男女の友情って成立するよね』って言ったら……」
- 男
- 「『少なくとも俺たちは、このままでいられるよな』という確認にもなる」
- 一彌
- 「そして逆に……」
- 男
- 「『男女の友情なんて結局成立しなくない?』」
- 女
- 「……って二人きりで言い出したら……」
- 一彌
- 「……一般社会について論じるふりをして、二人の関係の次状態を探索しているってことか!!」
- 一埜
- 「まあ、文脈によってはね」
- 一彌
- 「なんということだ!!💦」
- 女
- 「っていうかさ、『ねえ、私たちの関係を友情として固定したい? それとも恋愛への遷移可能性を探索したい?』とか、あなた人に聞ける?」
- 男
- 「そうは聞けないから『男女の友情ってあると思う?』って聞くんじゃん」
- 一彌
- 「いいではないか、グレッグ・イーガンみたいでロマンティックだ!💦」
- 一埜
- 「よくないよ!!💦」
- 一彌
- 「なぜ!? 曖昧性が少ない! 意図が明確! 選択肢も提示されている! 爆アドだ!✨」
- 一埜
- 「普通はもうちょっと情緒的に言うの!!」
- 一彌
- 「情緒的!? だがそのために、『コミュニケーション理解試験』という副作用が発生しているではないか!?
コミュニケーションに支障が出るだろ!💦」
- 男・女
- 「「普通じゃない?」」
- 一彌
- 「……え、大学生って、こんな高度なコミュニケーションの中で鍛造されてるの? ぼくが社会人をうまくやれない理由がわかった!」
- 一埜
- 「いやお兄ちゃん、大学生全員が恋愛語用論の高炉で鍛造されてるわけじゃないから!!💦」
- 一彌
- 「だって今のは、『男女の友情って成立すると思う?』というたった十数文字から、」
- 一般論を聞いているのか
- 我々の関係を確認しているのか
- 恋愛可能性を探索しているのか
- むしろ恋愛化を牽制しているのか
- 単なる雑談なのか
- 一彌
- 「を、視線・声色・既往歴・沈黙時間から推定するんだろ!?💦」
- 男
- 「言われてみるとオレらすげえことやってんな」
- 女
- 「でも普通そんな意識してないよ」
- 一彌
- 「そこが一番怖いんだよ!! 熟練者は無意識に処理している! つまり暗黙知だ!💦 『自然にわかるでしょ?』『わかんないやつヤバ笑』みたいな……」
- 一彌
- 「そして社会人になったらこれが!」
上司「これ、時間あるとき見といて」
一彌「承知しました。では時間が生じた際に」
上司「……できれば今日中に」
一彌「今日中という意味だったの!?💦」
取引先「ちょっと難しいかもしれませんね」
一彌「なるほど、実現可能性は低いが非零……」
一埜「それはたぶん断ってるんだよ!!💦」
- 一彌
- 「(溜息)やはりダメだ……! ぼくはツブと共に海底で暮らそう……💦 Frāter dēspērātus dēclārāvit sē
vīctūrum esse in fundo ōceanī cum
buccinidīs.(絶望した兄は、海底でツブたちと共に暮らすだろうことを宣言した)」
- 一埜
- 「Hūmānitās frātris mei fugācior est quam amīcitia inter virum et
mulierem.(私の兄の人間性は、男女の仲よりも移ろいやすい)」
- 一彌
- 「わははは!」
- 一埜
- 「ふふふ……w」
- 男・女
- 「(変な兄妹……💦)」
- 一般通過セネカ
- 「……(眉をひそめながら)……お嬢さん、ちょっと、それは……」
- 一埜
- 「えっ、セネカさん!?💦」
- 一彌
- 「本物!?💦」
- 一般通過セネカ
- 「Puella(お嬢さん)。比較級 fugācior と quam
を用いた表現は綺麗だったが、hūmānitās
は、単に人間らしさだけじゃなく、人文的教養とか優しさとか人徳という含意もある」
- 一般通過セネカ
- 「ゆえに、ちょっと悪口としてはドギツいかもしれぬ……」
- 一埜
- 「ああ~、確かに『人間性を疑う』とか日本語でも言うもんね……えぇ~っ、お兄ちゃんごめん! そこまで言うつもりじゃなかったの!💦」
- 一彌
- 「👍✨(気にするな、という兄のスマイル)」
- 一般通過セネカ
- 「Frāter meus homō esse citius dēsinit quam amīcitia inter virum et
mulierem.(私の兄は、男女の友情が終わるより早く人間であることをやめる。)……くらいでどうだろうか?」
- 一埜
- 「ありがとう!」
- 一彌
- 「サインもらえますか?」
- 一般通過セネカ
- 「うむ」
『Vita brevis, iter longum. Vale. — L. A. Seneca Transiens』
人生は短く、道のりは長い。さらばだ。― 一般通過セネカ
- 一埜
- 「そこまでが名称なんだ……💦」
*一般通過セネカ、通りすぎる!*
- 一彌
- 「……これはこれで語用論だな、うーむ……(座ってラテン語について考え始める!)」
- 店員さん
- 「あの、注文……」
- 一彌
- 「今忙しいから待って!💦」
- 店員さん
- 「……💢」
- 一埜
- 「す、すみません、一応枝豆……💦」
- 店員さん
- 「……枝豆ですね」
- 一埜
- 「はい、すみません……💦」
- 一彌
- 「考えてみろ。文法的には完璧でも、語彙が背負っている含意を読み違えると発話行為の威力が変わる!」
- 一埜
- 「さっき hūmānitās で私がやったやつね……w」
- 一彌
- 「そう! 君は軽く『お兄ちゃんすぐ人間やめるねw』と言いたかったんだけなんだ。だが……」
- 男
- 「なんか君たち、今日ずっと同じ話してない?」
- 女
- 「してる。『字面だけでは会話は決まらない』って話」
- 一彌
- 「あらゆる言語に、『コミュニケーション理解試験』は存在している……」
*一彌は溜息をつく……*
- 一埜
- 「どうしたの?」
- 一彌
- 「(頭を抱えて)……なぜ言葉が通じるのか、まったくわからなくなった……💦」
- 男
- 「あの……枝豆食べます?」
- 一彌
- 「……む、むむ、これは……どういう意味だ? 受け取って良いのか? 罠か? 遠慮すべきなのか?💦」
- 一埜
- 「疑心暗鬼だ!」
- 女
- 「ああもう、いいから食べなさいよ!💢(一彌の口に枝豆を詰め込む)」
- 男
- 「わははは、お前のそういうところ、ほんと好きだわ……友情的な意味でな!(一彌を拘束しながら)」
- 一彌
- 「アガガガガアガー!(モグー!)」