『星雲は』
<星雲は 腫瘍のごとく 横たわる>
余比喩、樹脂葡萄、松脂から誘導される位相。種子と輪郭、コルクのキャップ、木机、壁紙、囲繞する指先花火、逆惑星。理想化された妹、辿り着いたマイノングの穴、排中律によって排された中庸としての長男。そのようにして登場人物は配置される。準星座の池が広がる。
霧の早朝、舟を漕ぎだす。小さな誘拐として。感情逆系の図式として自動誘導されていく射影極限としての虚無、指先ですくう泥、骨と誼み。鎖骨、首筋、輪郭、連星、やわらかさ、肋骨で感じた痛み、章動、追悼としてのポインセチア。弟の名残を残した子供部屋。
願望夢。不在の人魚が誘った長男。水晶の繁茂、伸長してゆく豊穣の開射、あなたを三度騙して開闢される開世界。四角い円がぼくを飲み込み……。気が付けばそばには誰もいない。星雲は腫瘍のごとく横たわる。回転する人工衛星の軌道。霊魂を直交分解した向日葵畑、宙を渉る帆船、少女としての少年。
<この先には何もない。これで終わり。もう、ここで出来ることはない。この中でぼくは、同じことを繰り返して、あるいは変奏を何度試みても、行き着くところは同じで、そして、目が覚めて、この気持ちを、君に隠して生きていく。無尽蔵に何もかもが叶ったとして、それで、そのあとどこに行くのか。そうした精神はきっと、生まれる前へと回帰するだけだ。その地点では生成と消滅が向かい合い、一点で交わる>
目を凝らせば砂嵐の中に見えてくるものがある。非在の領域へと広がる関係図式、多重化されたモノイド対象、図と地が入れ替わり、白が黒へ、実数が虚数へ入れ替わる人物相関図。人工木材から糸杉へ。90度反転して並ぶアルファベッタ、それは踊り子の名前、開かれるカルテシアン閉劇場の韃靼踊り、二重否定位相、ブーリアン部分トポスから追放され、笛の音に操られ、曖昧の霧へと消えていく子供たち。
抗躁剤すなわち鎮静薬としての催眠音、化石化した地雷、怒り、悲しみ、希望の干満、行く先、骨、水、花、星、さらさら、そして、樹皮、自分の指で鼻筋を触るくすぐったさ、母乳、または。貧困化する開基、一般化平均、鳥の羽根、澪標、島嶼部。湿った粘り気と自己嫌悪。
<さようなら、倒錯と熱情のぼく。また会う日まで。そして、こんにちは、慈愛と灰色のぼく。君の良き兄として、ぼくは平坦な日常へと帰っていく>